GRカローラは意外と紳士的? 俊敏性と正確性が融合した走り。再販への期待値は?
掲載 carview! 文:山田 弘樹/写真:市 健治 113
掲載 carview! 文:山田 弘樹/写真:市 健治 113
GRカローラは、非常に面白いスポーツカーだ。走りのみならず、そのヒストリーまでもが面白い。
そもそも現行カローラにこの「GR」仕様が設定されたのは、北米市場の要求を受けてのこと。だからその発表もカリフォルニアのロングビーチで、北米で人気のドリフトシリーズである「フォーミュラD」開幕戦の前日に行われた。
トヨタ渾身のコンパクトスポーツ「GRヤリス」が販売されない北米市場の声に応える形で、ヤリスよりも一回り大きなカローラに、そのパワーユニットを押し込んだわけである。
そしてこのパッケージングには、なんと日本のクルマ好きたちまでもが大きな反応を示した。思うに彼らにとっても「GRヤリス」は、小さすぎたのだ。「RZ」で396万円、「RZ “High Performance”」で456万円という価格設定は、その背景をわかっていても、ヤリスというには少々高すぎた。しかしこれが家族を乗せられる「カローラ」なら、なんとか言い訳が利く。
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しかし “真性のクルマバカ”である筆者は、ホモロゲーションこそもはやルールの都合で関係なくなってしまったけれど、WRCラリーを制するために生まれた「GRヤリス」こそが、この直列3気筒ターボと「GR-FOUR」システムを搭載するべき存在だと思っている。
ベースに「ヤリス」が選ばれたのは、WRCを戦うためにはBセグメントの小さなボディが必須だからだ。日本のラインナップにはない3ドアだって、リア周りの空力性能を向上させるために、わざわざ用意したのである。
つまりヤリスだからこそ、このパッケージングには意味がある。どうしてその価値に、みんな気付かないのだろう? やはりモータースポーツは人気ないなぁ、と思ってしまうのだ。
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しかしその一方で、「ロマンじゃ奥さんの許しは得られない」という気持ちもわかる。そしてお父さんは何より、家族が大切なのだ。あの“ランエボ・インプ”が一世を風靡したのも、4枚ドアセダンのスーパースポーツだったからである。
だから最終的には今回トヨタがGRカローラにこのシステムを搭載したことは、こうした紆余曲折を経て賛成している。
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さらに面白いのはこのGRカローラが、かつて凌ぎを削ったホンダ「シビックタイプR」とは、まったく違うアプローチでファン・トゥ・ドライブを追い求めているということだ。
GRカローラのアーキテクチャーは前述の通り1.6L直列3気筒ターボと4WDの組み合わせであり、同じCセグメントに属しながらも2.0L直列4気筒ターボを前輪駆動で走らせるシビックタイプRとは、キャラクターがまったく違う。
愚直に伝統を守り、磨き上げ続けてきたアスリート気質のクラブレーサーがシビックタイプRであり、かたやGRヤリスのコンポーネンツを有効活用しながら作り上げたハイパフォーマンス・チューンドハッチがGRカローラ。
その走りをガチで比べたら、どちらが速いのだろう? という考えが浮かぶのは、クルマ好きなら必然だ。GRカローラのベースボディは2018年に登場した「カローラスポーツ」であり、一見出自の関係から不利にも思える。しかしシビックタイプRもそのプラットフォームは先代FK型からのキャリーオーバー熟成と、両車共に内燃機関とEVシフトがゆらめく時代を、うまく切り抜けている。
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2.0Lの排気量から330ps/420Nmを発揮するFWDのシビックタイプRに対して、エンジン出力は304ps/370Nmながら、GRカローラはコンパクトな直列3気筒ターボがもたらすノーズの軽さと、4WDのトラクションで対抗する。
ちなみにその車重は、シビックタイプRが1430kgであり、GRカローラが1470kg。大きなコースならシビック、小さなコースならGRカローラやや有利、というのが取りあえずの筆者の予想だ。
ただそんな対決を一端脇へ置いても、GRカローラは走りそのものが楽しく自己完結している。
1.6Lの直列3気筒ターボはGRヤリスの272PS/6500rpmから304PS/6500rpmへと最高出力が32PS向上しており、この「G16-E」ユニットにまだ市販エンジンとしての伸びしろがあるのかと驚かされる。最大トルク値は370Nmと変わらないが、そのトルクバンドを4500rpmから5550rpmまで引き上げることで、これを得ている。
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ロードカーとしては反力が強すぎるクラッチをつないでアクセルを踏み込めば、その加速は意外や紳士的だ。もちろん、一般道において必要以上にトルキーでパワフルなことには違いないが、そのアクセル追従性が高いブースト制御は、過激というよりもナチュラル。
そこにはGRヤリスよりも190kg増えた重量や、80mm長いホイールベース、そして4WDのトラクション性能が総合的に利いているのだろう。本当はここに「モリゾウエディション」のクロスレシオな6MTを投入すると、このエンジンが抜群に楽しくなる。全域トルキーな特性ながらも4500rpmあたりからのパンチがより明確になり、そこを外さないように走らせるのが最高なのだ。
一方でトヨタはこのGRカローラ(とGRヤリス)に、ATを設定すればよいのにと思う。スペックやスピードに目くじら立てず、普通にこの質感を楽しみたい人にとっては、それで十分だ。むしろ7段ATが細かくステップを刻めば、さらに加速感はアップするかもしれない。
そして筆者のような走りオタクには、クロスレシオをオプションで用意してくれたら夢が広がる。たとえすぐには、買えなくても……。
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GRカローラの乗り心地はクラッチ同様ハードで、ハッキリと硬い。むしろボディを鍛え上げ軽量化をも追求したモリゾウエディションの方が、サスペンションの伸縮がスムーズでしなやかな乗り味を示すのは少し皮肉だが、その潔い硬さこそがGRカローラの俊敏なハンドリングを作り上げている。
ターンインでボディを対角線でロールさせながら、素直に旋回するなら前後トルク配分を30:70とした「スポーツモード」がいい。対して全域で4輪のグリップ力を高め、マシンの一体感をシャープに高めたいなら、50:50の「トラックモード」だ。
筆者はこれをサーキットでは走らせていないので、果たしてその走りが限界領域でどれくらいコントローラブルなのか、刺激的なのか、もしくは期待はずれなのかはわからない。正直公道仕様としてはもう少しコシのあるしなやかな足周りでも良いのではないか? と思うのだが(そう、カローラスポーツのように!)、「トラックモード」を備えるスポーツカーの走りとしては、この引き締まった足周りが必要だったのだろう。
そしてこの俊敏性と正確性がミックスされたハンドリングを、素直に楽しんでもらいたいとトヨタは考えたのだと推測する。
そんなGRカローラはご存じの通り500台の限定モデルとして日本では販売され、既にその抽選販売も終了していている。
そんな「買えないクルマ」の試乗記を書いて、今さら何になる? という声もわかるが、そこにあるのは「半導体の不足」の影響であり、トヨタ自身も追加販売を検討するとコメントしている。だからこそ、GRカローラが欲しいならその声は出し続けるべきだと筆者は思う。
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またトヨタが「カローラ」を再び自社のアイデンティティに押し上げ直した以上、形はどうあれGRカローラはなくならないだろう。
振り返れば、現行カローラスポーツの登場は2018年と5年も前で、そのデザイン言語も一世代前の「キーンルック」だ。これが次世代になってハイブリッドもしくはEVスポーツになるのか、もしくはガソリン仕様や水素エンジン(!?)としてコンティニューされるのかはわからない。しかしトヨタが、そこに走りの楽しさを込めないワケがないことだけは、確かだ。
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